住宅とアレルギー疾患
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(舞子さんとツーショット)
日本住環境医学研究会医学顧問 大阪皮膚科医会会長 笹川征雄
2006年11月26日(静岡講演より)
先進国に多いアレルギー性疾患の増加
アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症、アレルギー性結膜炎は アトピー疾患(アレルギー疾患)といわれ、ここ20数年、日本だけでなく世界的に増加しています。厚生労働省の調査では、なんらかのアトピー疾患に悩む人は、成人の22%、小児では35%にのぼると推計しています。 喘息の有病率は全国平均で4%、小児喘息では平均15%、アトピー性皮膚炎の有病率は、乳幼児では3人に一人、小学生では7〜10%、アレルギー性鼻炎・花粉症の有病率は15% 、中学生では26%という有病率です。これらのアレルギー性疾患の増加は先進国に多い傾向があります。
アレルギー疾患の原因
アレルギー疾患の原因はまだ分かっていませんが、「遺伝的体質」に「環境因子」が関係すると考えられています。アレルギー疾患の症状を悪化させる因子は、気温、湿度、汗、食物、ダニ、ホコリ、カビ、細菌、花粉、動物のフケ・毛、ストレス、化学物質など多くの因子があります。 アトピー性皮膚炎では、季節(季節の変わり目)、汗、温度(暖かいと痒みが悪化)、湿度(乾燥すると、カサカサして痒みと皮膚病変が悪化)、日光(紫外線は少ない、赤外線か)、食事(子供の場合、卵など食餌が関係する割合は10〜20%以下といわれる、大人は食事のバランスが問題)、ダニ(皮膚科学会では重視しているが異論もある)、ホコリ、カビ、花粉、ストレス、揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、トルエン、VOC)、日常生活用品中の化学物質(洗剤、化粧品、殺虫剤、塗料、)、排煙・排気ガス(NOX、SOXなど)の大気汚染、土、衣類(化学繊維、毛)、ペット(イヌよりネコのほうが強く反応する)などがあります。
住宅環境中のアレルギー原因物質
部屋の中にあるアレルギー原因物質は、呼吸を通して体内に取り込まれるもの(吸入性)と、皮膚に接触してカブレのもとになるもの(接触性)とがあります。吸入性は、喘息の原因となりますし、接触性は、アトピー性皮膚炎を悪化させる原因となります。 室内空気中のアレルギー原因物質は、大きく分けると(1)微生物(カビ、ダニ、細菌)、(2)ペット(毛、フケ)、花粉、(3)化学物質(シックハウス症候群の原因である揮発性有機化合物:VOC)があります。 皮膚に接触してカブレのもとになるものは、植物、家具・建具の塗料、ワックス、洗剤、化粧品など様々な物質があります。 その他、直接アレルギーの原因物質ではありませんが、アレルギー疾患の症状を悪化させるものに、室温、湿度、タバコの煙などがあります。
ダニ
ダニは、喘息やアトピー性皮膚炎の原因になったり、症状を悪化させたりする原因として重要視されています。ただ、喘息やアトピー性皮膚炎とダニがどれぐらい関係する(影響が大きいか小さいか)のかという点については、医学界で意見が分かれていますが、関係があることは、多くの医学者は支持しています。
人間をかんで血を吸うダニもいますが、アレルギーの原因として重要なのは、表皮ダニです。とくにヤケヒョウヒダニ、コナヒョウダニが悪さをします。ジュウタン、畳、ホコリの中にもいますが、フトンなどの寝具がアレルギーへの影響が大きいと考えられています。
ダニ対策
ダニ対策には、ダニがどこにいるのか、どのような環境を好むのかなど、ダニの生態を知る必要があります。 生活様式、季節がダニの繁殖に影響しますが、6〜8月がダニの繁殖のピークになります。8〜9月には死ダニが増加して12月ごろまで続きます。生きたダニよりも、ダニの排泄物(フン)、死ダニの破片がアレルギーを強くおこすと考えられています。
(1)湿度
湿度とエサ(フケ、カビ)がダニの繁殖に関係します。ダニが一番好む環境は、室温25℃、湿度75%です。だから、湿度は60%ぐらいがよいと思います。喘息などでは、ホコリ1グラム中のダニの数は、500個以下が発作予防として有効と言われています。 人間にとって快適な湿度は、40〜70%とされたいますが、アトピー性皮膚炎に関しては、湿度が40%以下になると皮膚が乾燥して、かゆみが出てきたり、アトピー性皮膚炎が悪化したりします。70%以上になるとダニやカビが増えてきますので、湿度は、50〜60%の間(55%前後)にすることが望ましいと思います。
(2)室温
ダニは高温に弱く60℃、60分間で死滅しますが、低温にはめっぽう強いので、参考にしてください。 人間にとって快適な室温は、18〜22℃とされていますが、アトピー性皮膚炎に関しては、室温が高くなるとかゆみと皮膚症状が悪化しますので、低めの室温がよいと思います。冬の暖房時では、20〜24℃、夏期の冷房時では、23〜26℃がよいとされています。
(3)ダニの居場所
ダニは、ジュウタン、畳、ぬいぐるみ、ソファー、ドライフラワーなどのホコリの中にもいますが、フトン、マクラ、マットなどの寝具がアレルギーへの影響が大きいと考えられています。 とくに下フトンよりも上フトンがダニの影響があると言われています。3年以上たったフトンは、丸洗いするのがよいとされています。2週間に1回ほど、掃除機で1枚のフトン片側を1分ほどかけるとダニが減少して症状が軽くなるとされています。 フトンの日干し(湿度を下げる)、フトン乾燥機も有効です。
(4)殺虫剤はダメ
ダニをやっつけるために、殺虫剤がよいと考えるかも知れませんが、殺虫剤は、シックハウス症候群の原因物質でもありますし、健康によくない化学物質です。とくにアレルギー疾患の人や子供にとっては、避けるべきものです。電気香取線香・殺虫剤は、やめましょう。
カビ対策
室内のカビ(真菌)が健康障害やアレルギーの原因になることは、よく知られていますが、研究がまだ十分に進んでいない面もあり、ダニほど重要視されていません。カビはダニのエサになりますので、その面での影響もあります。
カビが病気をおこすものとして、
1.アレルギー
2.感染症
3.毒素・中毒
があります。
カビがアレルギーをおこす病気としては、
1.気管支喘息、
2.過敏性肺炎、
3.アトピー性皮膚炎、
4.アレルギー性鼻炎、
5.アレルギー性結膜炎
などがあります。
換気の重要性
ダニもカビも室温と湿度に関係することは明らかですが、健康に良好な室内環境を保つためには換気が重要な予防対策になります。1日数回10分以上きれいな空気が入ってくる窓を開けること、換気時は部屋のドアを開けておくこと、窓を開ける機会が少ない状態でしたら、台所、風呂場の換気扇を常時運転しておくこともひとつの方法です。